【連載インタビューvol.1】女子ホッケー日本代表さくらジャパン高橋章HC「いまの日本の女子ホッケーなら必ず壁をこえていける」

2025.06.03 21:45 | 日本代表

さくらジャパンが培い、受け継がれてきたマインド

―中国遠征では中国と4試合を行いました。確かめた点や仕上がり具合はどうでしたか。

  攻撃(ビルドアップ)と守備(プレス)の基本戦術の確立と浸透を目指しました。それも1つだけではなく、複数のシステム、オプションを用意したいと思っています。選手にとっては非常に負荷の高い作業だったと思いますが、みんながビデオを見てコミュニケーションを取ったり、個別にスタッフのもとを訪れてアドバイスを要求したり、とても良いコミュニケーションが取れました。まだまだ理解の差があったり、修正が必要な部分はあったりしますが、順調に進んでいます。

5月に開催された日中韓3カ国トーナメントにて(中国・北京) 写真=本人提供

―強化を進めているアジアのライバル国の印象と、通用した点や感じた差は?

 やはり中国は、プロリーグでもヨーロッパの強豪と対戦しているので、レベルもチームとしての完成度も非常に高かったです。そんな中でも自分たちが目指す攻撃の形は作ることができました。あとはその精度をさらに上げていくこと、その回数を増やしていくことができれば十分戦えると思っています。結果は全敗でした。自分たちの力不足は否定できませんが、まったく歯が立たない相手ではなくて、自分たちの今の力を知る上でとても貴重な経験になりました。今のチームにはオリンピックを経験した選手から10代の選手までいろんな選手がいますが、特に経験を積んだ選手たちの先頭に立ってチームを引っ張る姿や、現状に満足することなく貪欲に成長しようとする意欲を見せてくれているところが、チーム全体に良い影響を与えていると思います。彼女たちの姿を見て、若い選手たちが『自分たちも頑張らないと!』という気持ちになっているように感じます。こういった姿勢が、さくらジャパンが培ってきた、受け継がれてきたマインドなんだなあと感心させられています。

―女子ならでは強みは他にどのようなところに感じますか。

 女子の選手は非常に真面目で素直で、男子の選手が不真面目ではないですが(笑)、いろんなことを吸収しようという意識が高い。すごく教えられたことを忠実にやろうとする一方、自分からは新しいものにチャレンジしようとしないというか、指示とか要求を待つことが、男子に比べて女子の方が傾向は強いですね。着実に実行できることは強みです。ただ、ホッケーはゲームの展開、ボールのスピードが速くて、状況が瞬時に変わっていく。その中で選手が状況判断をして、プレーの決断をしなきゃいけない。全てこちらが指示をして動かすのは、ほぼ不可能です。基本的にフィールドの中にいる選手に対して、ベンチからどれだけ大声で叫んでも、そんなものは全然耳に入っていなくて、実際にプレーしている選手が判断、決断しなければいけない。その力を養わなければいけない。それが身についてくれば、壁を越え、目標達成に近づけると思っています。

 さくらジャパンで指揮をとる高橋HC 写真=本人提供

―女子ホッケー界が盛り上がっていく、強くなっていくために必要と感じているものはどんなことでしょうか。

 一つは、女性のコーチングスタッフの割合をすごく増やしたいと思っています。ただ実際なかなか難しい部分はある。日本のスポーツ界、特にホッケー界で、女性が活躍する場というのは少ない。オリンピックに6大会連続出場してきた女子の場合は、100人近いオリンピアンがいるのに、今の現場、トップカテゴリーで指導しているコーチっていうのが、本当に限られている。引退後はそれぞれ、いろんなかたちがあっていいと思っています。それでも女性のコーチが少ないというのが、解決しなければいけない課題です。

―他はどうでしょうか。

 置き去りにされていると感じるのは、選手たちがいろんなことを我慢するという点です。痛みやけがも、大きなけがをしちゃうまで言わないことですね。例えば学生の時に先生に痛い、体調が悪いと言って、じゃあもう試合で使わないよ、みたいなことも起こっている。そこはしっかりコミュニケーションを取っていく必要があると思っています。我慢強さは、ある意味、さくらジャパンの強さでもあったと思うんですよ。でも、今はトレーナーの体制やデータ面が進歩してきているので、選手の疲労度が数値化されて客観的に分かります。昔は痛いとか辛いとか言っていたら、次は代表に呼ばれないから、黙ってやるしかなかった部分もあるでしょう。選手が『大丈夫』と言っても、コミュニケーションを取って『痛そうなので、コンディションが良くなったら必ずもう一回呼ぶから』ということを丁寧に続けていきます。日本人指導者として、一緒に戦った仲間がいる各チームともうまくコミュニケーションを取れる面も大きいです。