2022.08.03 16:00 | 藤本一平コラム
2022年7月1日~17日までスペインとオランダで共催されたホッケー女子ワールドカップ(FIH Hockey Women's World Cup 2022)を視察してきました。
今まで一度もワールドカップ(以下、W杯)を現地観戦したことがなく、昨年は東京2020オリンピック(以下、東京五輪)も観戦できなかったので、今回こそは、という想いで行ってきました。2019年10月にバルセロナで行われたEuro Hockey League(EHL)に出場した男子代表サムライジャパンの田中健太選手を応援に行って以来、2年9ヶ月ぶりの海外渡航でした。
2030年のホッケーW杯を日本に誘致しようという動きがあるなかで、世界トップのプレーはもちろん、会場の雰囲気や運営方法、盛り上げ方などを視察したいという想いもありました。現地に行って感じたこと、気付いたことなどを綴っていきたいと思います。テンポよく読んでいただければと思い、ここから先の文体は敬体(です・ます調)ではなく、常体(だ・である調)を使用します。
藤本一平Ippei Fujimoto
1989年3月27日、山梨県都留市生まれ。天理高校では同級生の田中健太(日本代表)に誘われホッケー部に入部。3年時にインターハイ準優勝。早稲田大学に進学し、関東春季リーグ優勝や大学王座準優勝に貢献。社会人では名古屋フラーテルホッケーチームに所属し、合計10回の日本一を経験。(計80試合37ゴール)日本代表選手として2014年アジア競技大会(韓国・仁川)、2015年ワールドリーグ・セミファイナル(アルゼンチン・ブエノスアイレス/リオ五輪予選大会)などに出場した。CAP数59。2017年シーズンに選手を引退し、現在はNPO法人マイホッケープラスの一員として指導者、解説者、記者などを務め、ホッケー普及活動に取り組んでいる。早稲田大学男子ホッケー部コーチ。
大会は7月1日に開幕したが、以下のとおり、大会の後半を視察する旅程とした。
今回の記事では大会成績やさくらジャパンの試合を見て感じたことについて取り上げる。結論をざっくりまとめると
個人表彰は4タイトル中、3タイトルをアルゼンチン選手が受賞。
16チームが出場した今大会。最終順位は以下のとおり。
*カッコ内はWR:2022年2月17日時点(大会前)→7月19日時点(大会後)
大会前にWRトップ8に入っていたチームが順当にベスト8入り。前回の2018年ロンドン大会では、当時WR16位だったアイルランドが予選グループを首位通過し、準々決勝でインド、準決勝でスペインをそれぞれシュートアウト戦(以下、SO戦)の末に下して決勝に進み、銀メダル獲得という番狂わせがあった。今大会はそのような大きな波乱は起きなかった大会と言えるだろう。
ここからは女子日本代表さくらジャパンについて。結果は11位。予選リーグ3試合と、9~16位決定予選、9~12位決定戦の計5試合を振り返ってみる。
前提として、現在のWRは1試合ごとにポイントが変動するシステム。以下、対戦相手のWRは対戦当日のランキングを表記している。さくらジャパンは大会期間中、10位~12位の間で推移。試合時間は現地時間で表記。各試合のハイライト映像あり。(ありがたいことに日本ホッケー協会様のお力添えのおかげで大会メディアパスをいただくことができ、会場ではピッチレベルでの写真撮影、プレス席やメディアルームの使用などを経験させていただいた)
予選リーグ・グループDのさくらジャパンは初戦でオーストラリア(WR3位)と対戦。試合終了残り4分まで0対0と競った展開だったが56分にフィールドゴール(以下、FG)を許し、その後、GKを外すパワープレーに出るもさらに失点。0対2で敗れた。WR3位相手に終盤までよく粘れていたし、ゴール前まで攻め込んでGKと1対1となったチャンスシーンやファーポストでタッチできていればゴールといったシーンもあり、惜しい試合。
第2戦は南アフリカ(WR16位)と対戦。WRは格下だが、2017年のワールドリーグセミファイナル南アフリカ大会・5位決定戦では1対2、2014年W杯オランダ大会の9位決定戦では0対2と連敗していた。
今回は3分に永井友理主将、9分に鳥山麻衣がFGを決めて2点リード。34分にペナルティーコーナー(以下、PC)から錦織えみがリバウンドを落ち着いて決めて3点差。これはいけると思ったが、38分にFGを許すと、55分、59分に立て続けにPCを決められ、もったいない引き分け。
第3戦、対ベルギー(WR5位)は上位進出のために1点でも多く取って勝利し、勝点3がほしい試合。しかし、FIHプロリーグに参戦して着実に力をつけているベルギーにPCのドラッグ・フリックシュートを3本決められ、0対3。GKの左手側(いわゆる4番騎側)のコースを徹底的に狙われた。2ゴールのファンデン・ボルレは24歳(16歳の頃からシニア代表でプレー!)、3点目を決めたアンブレ・バレンゲンは21歳。日本は自陣でのボール回しで不注意なパスが多数あり、GK中村瑛香の好セーブに助けられたシーンが多かった。ポゼッション的にかなりベルギー優位に試合が進んだ。
日本は予選リーグで1分2敗、得点3、失点8、得失点差-5。グループDの4位となった。ベスト8入りの可能性がなくなり、9~16位決定予選に回った日本は韓国(WR11位)と対戦。19分にチーム最年少、小早川志穂のリバースヒットで先制するも、22分にPCからヒットシュートを決められ同点。44分のPCのチャンスで、日本は及川栞の打ったスイープのこぼれ球を錦織えみが押し込み、1点リード。しかし、51分に再びPCのヒットシュートを決められ、追いつかれる展開に。試合終了直前にPCを獲得したさくらジャパンは、東京五輪後の休養期間を経て代表に復帰した永井葉月が値千金の勝ち越しヒットシュートを決め、勝利。中4日の休みを経て、体力が回復していたのか、この日は終盤まで韓国よりも走れていた印象。
9位決定戦に進み、インドと対戦。日本は20分に浅井悠由がPCのヒットシュートを決めて、幸先よく先制。GK中村瑛香を中心に粘り強く守っていたが30分に振り向きざまヒットシュートを決められ、ハーフタイム直前の失点で同点に。38分にPCのスイープシュートを決められ、逆転を許し、45分には右サイドをパス&ゴーで崩されて失点。GK中村が一度はセーブしたものの、そのこぼれ球を2タッチの素早いプッシュで押し込まれた。日本よりインドの方が球際の反応がよかったように見受けられた。1対3で敗れ、日本は11位という結果となった。
PCの守備が気になった。13失点中、8失点はPCから。種類はフリック3本(ベルギー)、ヒット2本(韓国)、外タッチ2本(南アフリカ。内1本は1番騎が一度よく防いだが)、スイープヒット1本(インド)。相手との読み合いなので一概に言えないが、1番騎の走路や、4番騎の立ち位置&スティックで防ぐスキル、GKのポジショニングやヒットに対するセービングなどは改善の余地が大きそう。
また、クオーター毎の傾向を見ると、5戦で1Qは0失点、2Qは3失点、3Qは5失点、4Qは5失点と、試合終盤になるにつれて失点が多い。 各クオーターの残り1分以内の失点も5点あった。反対に得点は、1Q~3Qは各2点、4Qは1点のみ。4Qに点が入ったのは4日休息を挟んだ韓国戦の決勝ゴール。後半は足が動いていなかったり、球際の反応が遅れたり、集中力を欠いたプレーが目についたり。得失点の時間帯の傾向からも、今大会、さくらジャパンは終盤まで体力が持たなかったのではないか。
振り返ってみると今大会の事前合宿は、まず、5月27日~6月4日まで岡山県赤磐市でアイルランドと合同合宿。その後、6月中旬に日本を発ち、アイルランドで事前合宿。フレンドリーマッチを3戦(18日は2対0で勝利、19日は0対1で敗戦、22日は2対1で勝利)実施してからW杯開催地のスペインへ。事前合宿地アイルランドの6月の平均気温は13度程度で最高気温は20度に達しない。一方、開催地スペインは平均気温が30度を超え、特に大会期間中は熱波が来ていて非常に暑い日が続いた。暑熱順化するのはなかなか大変だったのではないだろうか。
もう一点、欧州各地の空港は旅行需要の増加とコロナ禍で解雇した職員の人手不足などで混乱が起きており、さくらジャパンも予定していた便の欠航やロストバゲージなどの影響を受けた。空港に長時間滞在させられたり、スペインに入ってからもホッケーのスティックやシューズ、ウェアなどが手元になかったため、現地で購入したり、トレーニングマッチがキャンセルになったりとかなりの苦労があったようだ。ピッチに立ったらやるしかないので言い訳はできないが、選手・スタッフは心身ともに調整がむずかしかったことが予想できる。もし、万全の状態で臨めていたら。(ちなみに準優勝したアルゼンチンは大会を終えた翌日、空港に到着してから欠航を告げられ、3時間バスで待たされた挙句、1日後の便を待つために100km離れたホテルを用意された。あまりのサービスの悪さに選手たちがSNSで非難の声をあげてニュースに取り上げられていた)
すでに終わったことで、過去は変えられないが、過酷な状況の中で大会を戦った経験を今後の国際舞台で活かしてほしいと願うばかり。こういった話を聞いて、評論家のように外から批判をするのは簡単。もし自分だったらどうしていたか。今後、どういった対策をしていくべきか。自分ごととして捉えて問題定義したり、議論したり、行動したりすることがよりよいホッケーの未来につながるはず。
個人的に思う今大会のさくらジャパンのベストプレイヤーは永井葉月。唯一勝利した韓国戦のハイライト映像にもあったが、1Qの4分10秒(画面上部の時計表示はカウントダウンなので10分50秒)に永井葉月が振り向きざまに右斜め前方にいた瀬川真帆に出したパス。事前に背後の状況を把握(プリスキャン)しておいて、レシーブ後にすぐに前方にパス。こういったパスは攻撃のテンポが一気に上がり、受けた選手に余裕ができる。こういうシーンをもっと増やせるとよい。レシーブ後に無駄に長い時間ドリブルをしたり、安全に横パスをしたりするとボールはキープできても攻撃のテンポが上がらない。
また、ピッチサイドでは永井葉月の指示の声や励ましの声がよく聞こえてきて、その声の大きさや指示のわかりやすさと的確さ、味方を鼓舞する内容に感心した。東京五輪後に休養期間を挟んでいたため、スキルや体力面はまだベストではなかったはずだし、ロストバゲージの被害も大きく受けた。(ユニフォームは大会を終えるまで本来の10番ではなく、28番で出場)そんななかでも試合中の存在感は大きかった。自身のSNSで公表していたが、今後は5年前に所属していたスペインのクラブチーム「Egara」でプレーするようだ。さらなる活躍に期待したい。
今大会、他のチームでは20歳前後の選手の活躍があった。さくらジャパンもパリ五輪の出場権獲得には若手のレベルアップが必須。8月のSOMPO JAPAN CUP(東京・品川区)や12月のネーションズカップ(スペイン・バレンシア)などを通じて、国際試合の経験を着実に積んでいきたいところ。永井葉月以外にも数人のさくらジャパンの選手が海外クラブでプレーする予定という話も耳にする。今後の成長に期待したい。
今回の記事では視察の経緯、さくらジャパンの試合を見て感じたことなどを取り上げた。次回は、ベスト4入りしたチームや気になったチーム(中国、チリなど)について取り上げたい。
(文=藤本一平)
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