【コラム】ホッケーの母国 英国強豪クラブで活躍する村瀬姉妹 姉・真菜は強化指定選手、妹・咲弥はEHL U14で銅メダル獲得

2023.07.27 13:15 | 藤本一平コラム

 2023年3月下旬から4月上旬にかけて、イングランドとオランダを訪問しました。4月1日、2日はイングランドのクラブNo.1を決める大会、England Hockey League Final Weekends(会場:Surbiton Hockey Club)を、4月5日~10日はヨーロッパのクラブNo.1を決める大会、Euro Hockey League(以下、EHL。会場:オランダ・アムステルフェーンのWagener Studium)のFinal 8を視察・取材してきました。
 今回のコラムでは、England Hockey League Final Weekendsの会場となったSurbiton Hockey Clubに所属する村瀬姉妹について、紹介したいと思います。

藤本一平Ippei Fujimoto

1989年3月27日、山梨県都留市生まれ。天理高校入学後、同級生の田中健太(東京2020五輪出場)に誘われホッケー部に入部。3年時にインターハイ準優勝。早稲田大学に進学し、関東春季リーグ優勝や大学王座準優勝に貢献。社会人では名古屋フラーテルホッケーチームに所属し、合計10回の日本一を経験。(国内大会に計80試合出場37ゴール)日本代表選手として2014年アジア競技大会(韓国・仁川)、2015年ワールドリーグ・セミファイナル(アルゼンチン・ブエノスアイレス/リオ五輪予選大会)などに出場した。日本代表CAP57、8ゴール。2017年シーズンに選手を引退し、現在はNPO法人マイホッケープラスの一員として指導者、解説者、記者などを務め、ホッケー普及活動に取り組んでいる。早稲田大学男子ホッケー部コーチ。

ホッケーの母国・英国の歴史

 一般的に近代ホッケーの起源は、サッカーやラグビーと同様、イングランドにあると言われています。(諸説ありますが、19世紀半ばにオフシーズンのクリケット選手たちが始めたと言われています)

 ホッケー競技がオリンピックの正式競技に採用されたのは、男子が1908年のロンドン五輪、女子が1980年のモスクワ五輪からです。英国男子は1908年ロンドン五輪、1988年ソウル五輪で金メダルを獲得。英国女子は2016年リオ五輪で金メダル、東京2020五輪で銅メダルを獲得しました。ここ最近の女子代表の活躍の影響もあり、英国でホッケーは「女子に人気のあるスポーツ」としての地位を確立しています。

 イングランドのホッケー競技統括団体「England Hockey」のホームページの情報によると、イングランドには登録クラブが800以上あり、クラブに所属して定期的にプレーしている人が約14万人(全人口の約0.25%)、そのうち大学でプレーする学生は約1万5千人。コーチや審判、競技役員は合わせて1万5千人以上です。
 参考に日本の登録チーム数は584、選手数は9,911人(全人口の約0.008%)です。(2022年度/出典:日本ホッケー協会のホームページ

▼英国のホッケーファン(England Hockey代表チームのFacebook投稿)

サービトンホッケークラブ

 そんなホッケーの母国・英国のホッケークラブで活躍する日本人姉妹がいます。冒頭で紹介した村瀬姉妹です。二人は1874年設立のSurbiton Hockey Club(以下、サービトンHC)に所属しています。

左=妹・咲弥、右=姉・真菜

 サービトンはロンドン南西部の郊外、キングストンアポンテムズ王立区内にある都市です。サービトンHCは世界で2番目に歴史のあるクラブで、テニスの全英オープンが行われるオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブから8マイル(約13km)ほどの距離にあります。

England Hockey Leagueの強豪

 サービトンHCは子どもから大人まで、1,000人を越えるメンバーが所属しているビッグクラブ。男女のトップチームはともにEngland Hockey Leagueのプレミアディビジョンで上位に入る強豪チームで、2022-23シーズンにおいて女子は準優勝、男子は3位という結果を残しました。

 2022-23シーズン、姉の村瀬真菜(まな・15歳)さんは16歳以下の選手で結成されるU16カテゴリーのチーム、妹の咲弥(さや・13歳)さんはU14カテゴリーのチームの一員としてプレーしました。

 父・雅之さんの海外転勤により、2014年に渡英した村瀬一家。たまたま近所にサービトンHCがあったこと、母・菜生(なお)さんが大学時代にホッケー部に所属(全日本学生ホッケー選手権=インカレの出場経験あり)していたことがきっかけで、真菜さんは8歳、咲弥さんは6歳からホッケーをはじめました。

クラブハウスの前で(左から筆者・雅之さん・真菜さん・咲弥さん・愛犬モカ・菜生さん)
ちなみにクラブのメインスポンサーはミズノ

Talent Academy

 人工芝2面を有し、コーチングスタッフの指導体制が充実しているサービトンHCで成長を重ねた村瀬姉妹。

22-23シーズンのファイルはサービトンHCのホームピッチで開催。レベルの高いホッケーを日常的に見ることができる恵まれた環境

 姉の真菜さんは2022年6月に、イングランドの世代別代表の登竜門であるTalent Academyの強化指定選手に選ばれました。

 Talent Academyはイングランドのホッケー競技統括団体England Hockey(イングランドホッケー協会)が育成ガイドラインに沿って選抜する強化指定チーム。全国に21箇所あり、各地域のU15〜U18の選手たちがセレクションを受け、25名程度が選抜されます。選抜された選手たちは年間を通じて毎週1回、質の高いトレーニングに参加し、チームとして定期的にレベルの高い相手との試合も行います。
 真菜さんはさまざまなコーチからの指導を仰ぎたいという意向で、Talent AcademyではSurbiton地域ではなく、あえて隣接するWimbledon地域のセレクションを受け、見事に合格しました。

アカデミーとクラブの相関マップ(こちらから閲覧可能)

五輪金メダリストとの対談も

 Talent Academyではオフ・ピッチ・トレーニングの一環として、トップ選手との対談の機会も設けられています。選手と直接会って交流する機会もあり、真菜さんはWimbledon HC所属で英国代表主将のHollie Webb選手(リオ五輪金・東京五輪銅メダリスト)との対談も経験しました。

 Talent Academyの中からさらに少数に選抜され、結成されるのが世代別イングランド代表候補「National Age Group」(通称NAGs)です。村瀬ファミリーの両親は「ここ2〜3シーズン、真菜の成長は著しいと感じています。ホッケーをとても楽しんでいる様子です。2022-23シーズンはサービトンHCのU16チームやSparks(大人のリーグに参加しているチーム)、そしてTalent Academyのチームと、色々なチームでさらに成長できる環境を自分の手で掴みました。今後が楽しみです」と話しました。

Euro Hockey League U14

 妹の咲弥さんがプレーするU14チームは、2023年4月のイースター休暇中にオランダ・アムステルダムで行われたABN AMRO EHL U14 Boys and Girls(以下、EHL U14)にイングランドのクラブチームを代表して出場しました。
 EHL U14はヨーロッパのクラブNo.1を決める大会、Euro Hockey League(以下、EHL)と同時期に開催されたアンダーカテゴリーの大会です。EHL Ranking Listの男女上位6カ国から1クラブずつ代表チームが出場する大会で、イングランドからはEngland Hockey(イングランドのホッケー競技統括団体)の推薦で男女ともにサービトンHCが出場しました。

オランダリーグでプレーする女子日本代表3選手も応援に駆けつけました(前列左が咲弥さん、右が真菜さん。後列左からオランダ在住の横江淳さん、鳥山麻衣選手、坪内萌花選手、田中花歩選手、村瀬さん父、筆者)

 この大会は6チームが2組に分かれて予選リーグを戦い、各組の1位と2位が準決勝に進出、3位は5位決定戦に進む大会形式でした。
 B組のサービトンHCは予選リーグ初戦でスペインのClub de Campoと0-0の引き分け。2戦目はアイルランドのPortadownに3-2で勝利し、予選を1位通過。準決勝はベルギーのWaterloo Ducks HCと2-2で引き分け、その後のシュートアウト戦で惜しくも敗れました。3位決定戦ではスペインのClub de Campoと再び対戦。シュートアウト戦の末に勝利し、見事銅メダルを獲得しました。

▼サービトンHCのTwitter投稿(前列左から6番目が咲弥さん)

「彼女は真のアスリートだ」

 咲弥さんはEHL U14の全試合にMFとして出場。3位決定戦ではドリブルでサークル内に侵入してペナルティーコーナーを獲得するなど、好プレーを多く見せました。大会期間中、宿舎で夜遅くまで起きているチームメイトが多くいたそうですが、咲弥さんは周りの騒音も気にせず、21時半に就寝。それを知ったヘッドコーチは"she's a proper athlete"(彼女は真のアスリートだ)と喜んでいました。
 両親は「遊びたい気持ちを抑えて体調管理を優先したことを褒めてあげたい。今シーズン、U14のトップチームに入れて、本当に良かった。今回のオランダ遠征でEHL U14の試合を経験し、同世代の実力を肌で感じ、刺激になったと思う。(これまで国内リーグは負けなしだったが)今大会でシーズン初の黒星を経験して悔し涙を流しましたが、3位決定戦で最後まで諦めずに戦ってメダルを獲得した選手達には感動をありがとうと言いたいです」と嬉しそうに語りました。

試合会場での村瀬ファミリー(中央はチームメイト)

EHL U14の参考記事:
https://ehlhockey.tv/2023/03/23/twelve-teams-excited-for-u14-ehl-at-pinoke/

さくらジャパンとのつながり

 2018年にロンドンで行われた女子ワールドカップには、女子日本代表さくらジャパンが出場しました。会場は2012年のロンドン五輪でも使用されたLee Valley Hockey and Tennis Centre。村瀬ファミリーは会場を訪れ、さくらジャパンの選手たちと一緒にホッケーをしたり、写真を撮ったりして交流を深めました。

 それから4年。2022年夏に日本に一時帰国した村瀬ファミリーは大井ホッケー競技場メインピッチ(東京2020五輪会場)で行われたホッケー教室に参加し、講師として参加したさくらジャパンの選手たちと再会。エキシビションマッチではさくらジャパン候補選手(当時)の及川栞選手、瀬川真帆選手、瀬上芽里選手(いずれも東京ヴェルディホッケーチーム)とチームを組んでプレーしました。

さくらジャパンとチームを組んだ村瀬姉妹(提供:父・雅之さん)

 さくらジャパンの選手たちと息のあった連携プレーを見せ、男子社会人選手相手に臆することなく対峙する二人の姿に、将来、彼女たちがさくらジャパンのユニフォームを着てプレーする日もそう遠くないのではないかと感じました。

前列左から瀬川選手、真菜さん、咲弥さん、及川選手 後列左から瀬上選手、浅野祥代選手(提供:父・雅之さん)

二人のコメント

姉・真菜

 今シーズンも一年間Talent AcademyとSubiton U16でホッケーをして、そしてイギリスの高校受験であるGCSEもがんばりたいと思います。

妹・咲弥

 今シーズンは、Surbiton U14でカップ戦とリーグ戦両方とも優勝したいと思います。

海外組

 2022年のサッカーワールドカップ・カタール大会。日本代表サムライブルーは、優勝候補だったドイツやスペインを予選リーグで下し、決勝トーナメント進出を果たしました。ベンチ入りした23名中、19名が海外組で構成されていました。
 女子さくらジャパン候補選手のなかでは、2022-23シーズンに、坪内萌花、田中花歩(ソニーHC BRAVIA Ladies)の2名がオランダリーグ1部のHC Klein Zwitserlandで、鳥山麻衣選手(南都銀行 SHOOTING STARS)選手はオランダリーグ2部のWere Di Tilburgでプレーしました。さくらジャパン育成選手の星希巳加選手はオーストラリアのWesley South Perth Hockey Clubでプレーしました。

▼オランダでプレーした3選手の記事

 日本代表チームを強化していくうえではやはり世界のホッケーを知る選手が増えるに越したことはないと思います。

 カナダの女子代表はオランダやベルギーのリーグに代表選手を多く送り込み、彼女たちは週の前半は代表選手が集まってトレーニングをし、週の中盤から後半は各々が自身の所属クラブでトレーニングを積み、試合に出るサイクルで強化をしていたそうです。また、フランス男子代表の選手たちは、ほとんどの選手が国内リーグではなく、より競技レベルが高いベルギーのリーグでプレーしています。

 今回の記事で取り上げたEHL U14では、中学生くらいの若い選手たちがクラブや国の威信をかけて、ハイレベルな戦いを繰り広げていました。EHLという世界トップレベルの戦いが行われているピッチのすぐ隣で、アンダー世代から外国のチームと戦った経験というのは選手たちの大きな財産になり、自信にもつながると思います。移動の容易さというヨーロッパの地理的なアドバンテージもありますが、こういった大会をしっかりと企画・運営していることもヨーロッパの国々の強さの一因なのではないかと感じました。

 ホッケー日本代表をどのように強化していくのがよいか。海外組を増やすのが有効なのであれば、どのようにその体制を作っていくのか。他国や他競技の事例もうまく取り入れつつ、よりよい方法を模索し、できることから実行していきたいものです。今後の村瀬姉妹のさらなる活躍を楽しみに。また、土曜から北海道で行われるインターハイでの高校生たちの熱い戦いに期待しながら、今回の記事はここで終わりたいと思います。それではまた。