【ホッケー女子W杯2022観戦記No.2】ベスト4入りした蘭・爾・豪・独 闘将率いるチリ、豪華なコーチ陣の中国

2022.08.17 12:30 | 藤本一平コラム

 2022年7月1日~17日までスペインとオランダで共催されたホッケー女子ワールドカップ(FIH Hockey Women's World Cup 2022)を視察してきました。

 今まで一度もワールドカップ(以下、W杯)を現地観戦したことがなく、昨年は東京2020オリンピック(以下、東京五輪)も観戦できなかったので、今回こそは、という想いで行ってきました。2019年10月にバルセロナで行われたEuro Hockey League(EHL)に出場した男子代表サムライジャパンの田中健太選手の応援に行って以来、2年9ヶ月ぶりの海外渡航でした。

 2030年W杯を日本に誘致しようという動きがあるなかで、世界トップのプレーはもちろん、会場の雰囲気や運営方法、盛り上げ方などを視察したいという想いもありました。現地に行って感じたこと、気付いたことなどを綴っていきたいと思います。テンポよく読んでいただければと思い、ここから先の文体は敬体(です・ます調)ではなく、常体(だ・である調)を使用します。

藤本一平Ippei Fujimoto

1989年3月27日、山梨県都留市生まれ。天理高校では同級生の田中健太(日本代表)に誘われホッケー部に入部。3年時にインターハイ準優勝。早稲田大学に進学し、関東春季リーグ優勝や大学王座準優勝に貢献。社会人では名古屋フラーテルホッケーチームに所属し、合計10回の日本一を経験。(計80試合37ゴール)日本代表選手として2014年アジア競技大会(韓国・仁川)、2015年ワールドリーグ・セミファイナル(アルゼンチン・ブエノスアイレス/リオ五輪予選大会)などに出場した。CAP数59。2017年シーズンに選手を引退し、現在はNPO法人マイホッケープラスの一員として指導者、解説者、記者などを務め、ホッケー普及活動に取り組んでいる。早稲田大学男子ホッケー部コーチ。

ベスト4とチリ、中国

 今回はベスト4に入ったオランダ、アルゼンチン、オーストラリア、ドイツについて、試合を観戦して感じたことを綴っていきたい。また、気になったチームとしてチリと中国にも触れる。

▼前回の記事はこちら

オランダ

 スター軍団。どのポジションにも抜け目なし。東京五輪で金メダル、W杯も連覇していた女王が今回も栄冠を手にして3連覇。登録メンバー20名中、オランダリーグの強豪クラブ、デンボッシュ所属が9名、アムステルダム所属が5名と大多数がこの2つのクラブのメンバー。そのほかはSCHC所属が2名、HGC所属とOranje-Rood所属(及川栞・永井葉月選手が以前に所属していたチーム)が各1名という構成。

表彰式でのオランダ

 PCの2枚看板フレデリック・マトラ(25歳)とイビ・ヤンセン(22歳)を擁しながら、チームの大会通算PC得点数は6試合で6得点とさほど振るわなかったが、FGは9得点でトップ。失点数はわずか5点。個、組織ともに守備能力の高さが際立っていた。相手のボールを盗むように奪う左手1本のスティールはお見事!と言えるシーンが多々あった。腕の長さも関係しているとは思うが。

 個人的な意見だが、大会ベストゴールは決勝戦のオランダの3点目。自陣23mから細かくパスをつないでボールサイドからヘルプサイドに乗り換え、フェリス・アルバース(22歳)がスピードドリブルからのプッシュシュートを落ち着いて決めたゴール。パスワーク、個の力が噛み合った素晴らしいゴールだった

▼フェリス・アルバースのゴール映像

▼得点が決まった後のスタジアムの盛り上がり

 決勝戦の試合終了直後、オランダのヘッドコーチ、ジャミロン・ムルダース(46歳/ドイツ人)は、今大会でアルゼンチン代表からの引退を表明していた対戦相手のGKベレン・スッチー(36歳)が敗戦のショックで倒れ込んでいるところに駆け寄り、言葉をかけていた。対戦相手に対するリスペクトの気持ちが素晴らしいと感じた。

▼ジャミロン・ムルダースがスッチーに駆け寄るシーン

アルゼンチン

 攻撃的で勢いのあるホッケーで決勝まで勝ち進んだアルゼンチン。しかし、決勝戦は前がかりになったときのカウンターケアが甘く、オランダに1対3で屈した。ベストプレイヤー賞を受賞したマリア・グラナット(27歳)、得点王の オグスティーナ・ゴルセラニー (26歳)、GK王のベレン・スッチーなどタレントが揃っており、熱狂的なアルゼンチンサポーターの声援もあって、スペインの会場でもまるでホームのような雰囲気で戦っていた。

アルゼンチン代表

 大会を通じてチームがあげたゴール数は1位の19得点。そのうち8得点はドラッグ・フリッカー、オグスティーナによるもの。彼女は身長160cmとそこまで体格が大きいわけではないが、ドラッグ・フリックシュートをゴールの上段に突き刺し、スクープは50mほど飛ばしており、そのスキルとパワーには驚かされた。

▼オグスティーナのドラッグ・フリックシュート

 アルゼンチン主将のロシオ・サンチェス(33歳)はママさんプレイヤー。決勝戦後の表彰式は子どもを抱いてメダルを受け取っていた姿が印象的だった。

子どもを抱えて表彰式に参加したロシオ・サンチェス

オーストラリア

 オーストラリア初の女性ヘッドコーチとして2021年3月に就任したカトリーナ・パウエル(50歳)。昨年の東京五輪はグループリーグで5戦5勝、15得点1失点とダントツの首位通過。しかし、準々決勝でインドに0対1で敗れ、ベスト8に終わったオーストラリア。東京五輪後もカトリーナ体制が続き、迎えたW杯で前回大会の4位を上回る銅メダルを獲得した。

カトリーナ(中央)は選手時代にアトランタ五輪、シドニー五輪で金メダル、通算252キャップ、141ゴール

 予選リーグで日本と同じグループDだったオーストラリアは、日本に2対0、ベルギーに2対0、南アフリカに2対1で3連勝し、首位通過。鬼門の準々決勝は開催国スペイン相手に2対0でクリーンシート。準決勝では優勝したオランダに0対1で惜敗したが、3位決定戦はエースの14番ステファニー・カーショー(27歳)の2得点でドイツを2対1で下した。私が日本代表選手としてプレーしていた当時のヘッドコーチ姜建旭さん(かん・ごんうく/51歳/今大会は韓国のアシスタントコーチ)は3位決定戦の前に「オーストラリアは高い位置でのプレスがいいですね。ただ14番の選手以外に得点を取れる選手があまりいない。ゲームチェンジャーが必要ですね」と評していた。その分析通り、3位決定戦でオーストラリアはハイプレスでドイツを苦しめ、ステファニーが2得点を奪って勝利。

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ドイツ

 1998年オランダ大会での銅メダル獲得以来、W杯でメダルから遠ざかっているドイツ。予選はオランダと同じグループAに入り、2位通過。クロスオーバーマッチの南アフリカ戦、準々決勝のニュージーランド戦ともに1対0で接戦を制してベスト4入り。準決勝ではアルゼンチンと2対2で引き分けたものの、シュートアウト戦は2対4で敗れ、3位決定戦へ。3位決定戦はオーストラリアに1対2の逆転負けで2大会連続の4位となった。
 印象的だったのは12番のストライカー、シャルロッテ・シュタペンホルスト(27歳)。大会通算4得点はすべてフィールドゴールで得点ランキング3位。フィールドゴール部門は単独1位。

シャルロッテ・シュタペンホルスト

▼ゴール前で落ち着いてプレーできる選手。得点センスを感じた。

 ヘッドコーチのヴァレンティン・アルテンブルク(41歳)は2016年リオ五輪でドイツ男子を銅メダル、2021年ジュニアW杯でU21ドイツ男子を準優勝に導いた実績の持ち主。2022年1月からドイツ女子のヘッドコーチとなり、今大会が初の大きな国際トーナメント。派手なアクションやユーモラスな仕草が目を引くコーチ。まだ就任して日は浅く、若手選手の割合も多い。ここからパリに向けてドイツはまだまだ伸びていきそうな印象を受けた。

ヴァレンティン・アルテンブルク

初出場のチリ代表

 大きな波乱は起きなかった大会だったが、そんな中で個人的に印象に残ったのは初出場のチリの躍進。予選リーグで格上のアイルランドを1対0で下し、強豪国ドイツ、オランダからそれぞれ1点を奪う健闘ぶり。クロスオーバーマッチはベルギーに0対5で完敗し、9~16位決定予選は中国に0対3で敗れたが、13位決定戦は日本が引き分けた南アフリカ相手に1対0で勝利。大会前は17位だったWRが大会後、14位まで浮上。

 13位決定戦はオランダの会場で現地観戦していたが、チリのヘッドコーチを務めるアルゼンチン人のセルヒオ・ビヒル(Sergio Vigil/56歳)の情熱的な姿が印象的だった。女子アルゼンチンを率いて2000年シドニー五輪銀、2002年W杯金、2004年アテネ五輪銅を獲得した名将。

 セルヒオはベンチには入らず、観客スタンドからインカムでベンチにいるアシスタントコーチに指示を出すスタイル。大声を出し、感情を爆発させながらコーチングする姿にカリスマ性を感じた。

▼国歌斉唱で涙

▼W杯初ゴールが決まったあとの派手なガッツポーズ

 セルヒオがあまりに大きな声で指示を出すからなのか、チリのベンチにいるアシスタントコーチは時折、インカムのヘッドホンを外していたが…。いずれにしても今後、チリがどのようなチームになっていくのか。気になる存在。

中国は豪華なコーチ陣

 中国は東京五輪でオランダを金メダルに導いたアリソン・アナン(49歳)が2022年5月からヘッドコーチに就任。

アリソン・アナン(中央)、タケ・タケマ(左)

 アシスタントコーチにはオーストラリアのレジェンド、リック・チャールズワース(70歳)。PCのドラッグ・フリックのスペシャリストとして男子オランダ代表で活躍し、東京五輪ではさくらジャパンのPCコーチを務めたタケ・タケマ(42歳)が入閣。結果的に9位に終わったが、予選リーグでニュージーランドやインドに引き分け、試合内容も以前は個人技頼みだったのが今大会では攻守ともに組織的なプレーが数多く見受けられた。タケ・タケマは「アジア競技大会が2023年に延期になったので今後の契約はまだ読めない部分はある」と言っていたが、今後、彼らのコーチングのもとで中国がどのようなチームになっていくか目が離せない。

リック・チャールズワース(左)とタケ・タケマ

 今回の記事ではベスト4入りしたチームと、気になったチーム(チリ、中国)を取り上げた。次回は、オランダ会場の雰囲気や会場周辺に設けられたファンゾーンなどについて取り上げたい。

(文=藤本一平)

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